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BRAND STORY 005 / near.nippon

国内をはじめ、世界のファッションシーンを牽引する人気ブランドの原点から未来のヴィジョンまで、ブランドのアイデンティティを紐解く『BRAND STORY』。連載第5回目にご登場いただいたのは、ベーシック×モードをベースに、“新しいバランスとシルエット”を提案する『near.nippon』デザイナー深山拓也さん。物作りに対する情熱と最新コレクションについて伺いました。

デザインすること以外に興味がなかった

仕事や子育てに奮闘しながらもファッションを愛して止まない大人の女性を魅了する『near.nippon』。デザインとコンセプトを担当する深山拓也さんと、巧妙なパターンテクニックでデザインを具現化していく上島朋子さんが2000年に共同でブランドをスタートする。きっかけは、専門学校での出会いだという。

「僕が、織田ファッション専門学校に通っていた当時、上島はクラスの副担任をしていたんです。卒業後、就職する予定もないままスタイリストの先輩のお手伝いをしていたのですが、スタイリストという仕事は基本的には洋服を作らないので、だんだん物作りがしたいなという気持ちが湧いてきて、そんな時にパッと浮かんだのが、先生とだったらいいものが作れるかもしれないという閃きだったんです(笑)。僕は専門学校時代、デザインすること以外に全然興味がなくて、パターンや縫製などの課題はちゃんとやらないし、遅刻もよくしていました(笑)。だから絶対に断られるだろうなと思いながらも思い切って、『先生ブランド一緒にやらない?』って聞いたら、『いいよ!』って意外にも即答してもらえたんです」

ブランド発足当時は二人ともアパレル業界の経験がなかったため、手探りの状態から少しづつ経験を積んでいくことになる。

「まずは、場所が必要ということでアトリエを構えて、取りあえず生地を買おうとしたのですが、アパレルでの経験がなく、どこで買えばいいのか分からなかったので大手生地メーカーに直接問い合わせてみたんです。もちろん門前払い状態でしたので、この時はどうしよう、買えない、作れない! って焦りました(笑)。その後、アパレル業界の知人に色々紹介してもらって、ようやく服作りができる環境が整ったという感じです」

2018年秋冬コレクションについて熱く語る、『near.nippon』デザイナー深山拓也さん。

異なる要素のバランスを大切にした物作り

美しい響きのブランド名には、“相反する要素を近づける”という意味が込められている。

「洋服作りの根底に“フェミニン”と“マスキュリン”が混ざったものが好きということがあり、その異なる要素を近づけるという意味で、“near”。そして、“nippon”には日本人のアイデンティティの意味を込めています。例えば、気配りができるところが日本人のアイデンティティの一つだと思っていますので、消費者の痒いところに手が届くような物作り。それと、日本の伝統技術を継承する各地の機屋(工場)さんの素晴らしさを反映させて名づけました」

ブランド名とコンセプトが固まっていく一方、ビジネスとしてブランドを確立するには時間も必要だったという。

「なかなか生地を売ってもらえなかったので、日暮里で生地を買ってサンプルを作って、アポなしで全国一周したんです(笑)。この時、九州から北海道まで回って1軒しか決まらず、あるお店では東京で一旗揚げてから来てと言われて洋服も見てもらえなかったんです。それがすごく悔しくて、色々調べて、それまで参加したことがなかった合同展にチャレンジしたのですが、そこで初めて引き合いがあり、少しづつ動き出したという感じです」

初期のコレクションでは立体的なアイテムが存在感を放っていたが、近年はベーシック×モードをベースとした提案が定着してきている。

「ブランドを始めた頃は世間に知ってもらいたくて、自分のエゴが強く、偏っていましたね(笑)。ファッションはやりたいことを理解してもらえないと、作り手も買い手も喜べないと思いますので、自分たちの個性とお客様のニーズを近づけて、どんどん削ぎ落とされていったことで今が在ると思います」

『near.nippon』は、異なる要素のバランスを大切にしながら、相手を喜ばすこと、そして自分たちが納得できる物作りをすることを目指している。

  • 大きい衿が醸し出すかわいらしい雰囲気とマニッシュな雰囲気が共存するトレンチコート。ローゲージニットも着れる袖幅でスカートルックでもパンツルックでもキマる万能アイテム。後ろのタックが開きすぎないようにエレガントに見える位置で絞り、サイドにはスリットを入れてロング丈でも動きやすい仕様にしている。存在感のある水牛ボタンもポイント。
    トレンチコート 117,000円 / near.nippon

  • ラグジュアリーになりがちなファーコートの袖にマニッシュなトレンチコートの要素を取り入れ、普段使いしやすくしたエコファーコート。毛足が短く、密度の高いエコファーを使用し、高級感とカジュアル感を共存させている。ライニングにはキルティングを採用しているため暖かく軽量なのが嬉しい。
    コート 88,000円 / near.nippon

コレクションの構想は生地づくりから始まる

2018年秋冬コレクションのテーマは、” MULTI CULTURES ” 。中東民族のエスニック感と東京のオフィスルックを掛け合わせて、東京のオンシーンでも着れるエスニックを表現している。ブロックチェックのケープ風コートやビックシルエットのトレンチ、エコファーのプルオーバー、モヘアのビッグケーブルワンピースなど、中東の香りが漂うアイテムが揃う。中でもビッグリーフ柄のプリントに目を奪われる。

「毎シーズンやっている技法で京都の手捺染(てなっせん)があるのですが、今回は少し違う抜染というプリントにしています。一度、生地全体をネイビーに染めて、リーフ柄の緑色が入る部分のネイビーをブリーチしながら緑色を入れるみたいな手法で、色が混ざり合うというかネイビーが影響する感じの風合いに仕上げています」

コレクションの企画に入る際、まず、“どこの機屋でどんな生地を作るか”ということから構想するそう。

「生地づくりから始まり、デザインの焼き回しをせずにゼロからシルエット作りをしていくというのが制作の流れなんです。今シーズンの核となるオリジナル生地、ブロックチェックは接結という織り方で、表と裏の繋ぎ目の糸を強めに留めて、もともと幅が広くて薄い生地をぎゅっと圧縮することで、ふわっとした風合いとボコボコ感を出しています。この工場はジルサンダーなど、海外ブランドにも人気の工場です。また、オリジナル加工のボンディングは生地感が生かされるように試作を繰り返して完成させたものです。スカートやパンツの他、切りっぱなしができるため、ブラウスのポケットに付けるなど、エレガントになりすぎないようにバランスをとるためのポイント使いもしています」

その他、ブランドの人気アイテムのひとつ、ニットにも熱いエピソードがあった。

「ニットは山形にある大人気のニット工場で作っています。数年前、ニットの展示会で見かけた編み地に一目惚れをして、山形まですぐに行き、とにかくやりたいことを全力で伝えました。その時、他に4社くらい来ていて、セレクションでギリギリ受かったという感じなのですが、絶対やらせてくださいっていう、情熱だけで受かったようなものだと思っています(笑)。ちなみに、この工場には一年中新しい編み地を考えている開発担当のような職人さんや、ニットの神みたいな職人さんがいるんです(笑)。僕のニットに関する知識が足りなくても、アイディアをぶつけると面白がってくれるような、柔軟な感覚と技術を持った方たちにいつも支えられています」

職人さんの卓越した技術とブランドのクリエイションがバランスをとりながら近づいていく、『near.nippon』ならではの関係性が窺える。

  • 上品なエコファーのプルオーバー。着脱しやすいように後ろにファスナーが取り付けられている。ファー素材でありながら、伸縮性があり柔らかく着心地もよい。
    オーバー 28,000円 / near.nippon

  • 二重織りの接結部分を少し強めに止め、 接結していない部分との差をつけて生地に凹凸感を出し、 更にタンブラー加工で限界まで縮めて凹凸をより引き立たせたオリジナルの接結ウール。驚くほど軽量なコートに仕上がっている。取り外し可能なストールはひざ掛けとしても重宝する。
    ストール付きケープ風コート 98,000円 / near.nippon

  • 尾州で紡績された高級ウール糸を高密度二重織り(ダブルクロス)したメルトン素材とエコファーを組み合わせたデザインコート。ボタンとウエストの位置を高めに設定することで、美しいスタイルに見える視覚効果をプラスしている。カジュアルな印象のファスナーとエレガントな袖のエコファー使いが、『near.nippon』らしいバランスに。
    コート 102,000円  スカート 39,000円 /ともにnear.nippon

Tシャツとデニムから始まった、デザイナーへの道

高校生の頃はスポーツに熱中する日々を過ごし、具体的な将来の夢や進路のことを考え始めたのは部活を引退した後だったという、深山さん。

「進路についてちゃんと考えたのが部活引退後で、まず、絵を描くことが好きだったので美大に行こうかなと安易に思ったのですが、勉強もできなきゃ美大に行けないことを知り、じゃぁ無理だなって(笑)。それで、おしゃれをすることも好きだったのでファッションかな? と考えましたが、高三の頃のおしゃれって、お金もないし学校の帰りに高円寺の古着屋を毎日回ったり、白T、ヴィンテージのデニム、スニーカーを買い漁ったりしていた程度だったので、それってファッションや服をデザインすることには繋がらないなと思っていました。その後、たまたまN.Y.コレクションでヘルムートラングが、“白T+デニム”のコレクションを発表しているのを見かけて、それをデザインとしてやってもいいのであれば僕もファッションをやろうと思い、専門学校に入ることにしたんです」

ヘルムートラングがきっかけでミニマリズムを知り、専門学校で勉強をしていくうちに、いろんなデザイナーの影響を受けるようになる。

「ヘルムートラングがデザインをするきっかけになりましたが、ファッションを学んでいくうちに、影響を受けたのはヴィクター&ロルフです。一見、Tシャツ+デニムとは真逆のファンタジーですが(笑)、ベーシックなアイテムを独特のレイヤードで表現していた代表的なジャケット(8枚重ねのシャツ)は、ある意味シャツはシャツだし、ミニマリズムの過激版ということでどこか通ずるものがありました。あと、マックイーンやガリアーノ、ディオールのファンタジーみたいなところにも影響を受けて、ミニマルとファンタジーを掛け合わせたものをやりたいなって思うようになり、今の『near.nippon』の考え方に繋がっていったんだと思います」

今後は、より多くの人にブランドを知っていただくために、ブランドの個性とお客さまのニーズをバランスよく“近づける”ことを、もっともっと深く突きつめていきたいと語る、深山さんのブレない想いに、『near.nippon』の真髄が現れている。

深山さんがファッションの道へ進むきっかけとなった、ヘルムートラングの洋服たち。「袋布が表に出ているデニム、ラングが最後にデザインした巨大なロープベルト、生地もボタンも全部同色で統一されたアウターなど、ラングならではのミニマリズム。これをデザインと言っていいんだと教えてもらったように思います」

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near.nippon

深山拓也(ミヤマ タクヤ)織田ファッション専門学校 ファッションデザイン科卒業。
上島朋子(カミジマ トモコ)文化服装学院アパレル技術専攻科卒業後、織田ファッション専門学校で服飾教員として勤務。
専門学校での出会いがきっかけとなり、2000年にブランド『near.nippon』を立ち上げる。深山さんがコンセプトとデザインを担当し、上島さんがそれを形に落とし込んでいくという、二人の息の合ったコレクションを発表している。2006年、『株式会社near』設立以降、東京の他、パリの合同展にも出展するなど精力的な活動を行う。現在、コレクション発表の場を東京に限定し、“新しいキャリア層の創造”をテーマにした、ビジネスシーンにおける自己表現、日常生活におけるクリエーションを提案している。

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  • Photo: Hiroki Ota
  • Text&Edit: Naomi Miura
  • Direction: Miki Fujibayashi

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