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BRAND STORY 006 / COOHEM

国内をはじめ、世界のファッションシーンを牽引する人気ブランドの原点から未来のヴィジョンまで、ブランドのアイデンティティを紐解く『BRAND STORY』。連載第6回目にご登場いただいたのは、高度なテクニックで多種多様な糸を個性豊かに編み上げていく、唯一無二なニットブランド『COOHEM』のディレクター大江 健さんとウィメンズデザイナー神山悠子さん。モノづくりのこだわりと最新コレクションについて伺いました。

モノづくりカルチャーを世界に発信する、ファクトリーブランド

前衛的で緻密な組織のニットテキスタイルとトラディショナルマインドを大切にしたデザインで、今までにない新しいアプローチのニットを提案している『COOHEM』。ニットデザイナーで知らない人はいないというほど知名度の高い、山形県の老舗ニットメーカー『米富繊維』のファクトリーブランドとして、2010年秋冬コレクションよりスタートする。ディレクターの大江 健さんは、専門学校でマーケティングやデザイン、ファブリックを学んだ後、はじめはセレクトショップで働いていたという。

「一般的なブランドはデザイナーがどこかのブランドで修行して、独立後に自身のブランドをローンチするという流れだと思いますが、『COOHEM』は僕の祖父が戦後に創業したニット工場『米富繊維』の新事業として立ち上げました。セレクトショップではメンズの売り場にいたのですが、海外の有名なファクトリーで作った高級スーツなどが、どんどん売れていくさまを見ているうちに、なぜ日本のファクトリーブランドってないのかなと、疑問に思い始めていました。それとリンクするように『米富繊維』も縮小している時期で、初めて父親と真面目に会社の話をした際に新事業の話があり、僕は販売スタッフでしたのでニットの企画をしていたわけではなかったのですが、この会社で新しいブランドをつくって、挑戦するという目的で転職したかたちです」(大江)


ニット業界だけでなく、ファッション業界を支える工場は時代の流れとともに減りつつある。今年で創業66年という歴史を持つ、『米富繊維』のモノづくりや技術が途絶えないように、モノづくりと技術自体をブランドにして世の中に発信していくことが、ブランドを立ち上げた一番の目的。

「ブランド名の由来、“交編(形状の異なる複数の素材を組み合わせて編み立て、まったく新しい素材を産み出す技術)”のように、いろんな素材と編み組織のテクニックを組み合わせて、他の工場で作れないものを作る技術がありましたので、最初に作るファクトリーブランドは『米富繊維』が続けてきたモノづくりの一番コアな部分をベースにするべきという考えのもと、『COOHEM』を立ち上げました」(大江)

都内にある『COOHEM』のショールーム。ニットテキスタイルの開発からはじまるモノづくりについて語る、ディレクター大江 健さんとウィメンズデザイナー神山悠子さん。

生地開発から仕上げまで、すべての工程を自社工場で完結

高度な技術が要求される複雑な編み地や上質素材に通常は施さないような加工など、こだわり抜いて企画されたデザインを、技術と経験を積んだベテラン職人と柔軟な想像力を持つ若手スタッフが具現化していく。『COOHEM』は、ニットテキスタイルの開発から、編み立て、パターン、縫製、仕上げまで、そのすべての工程を自社工場で完結している。

「僕がなぜ山形の工場にいてデザインするのかというと、想像でこの糸を合わせたらこうなるんじゃないの? って思っても、実際に作ってみないと仕上がりは分からないものなんです。工場にはベテランの職人がいますので、例えばこの糸とこの糸をこの組織でこんなふうにしたいとリクエストを出すと、1時間後にはトライしたものを持ってきてくれるんです。それで、何度もやり直しを繰り返していく。一つの生地を作るのに約20パターンくらい試しますが、最終的に最初のものに戻ったりすることもよくありますね(笑)。こういうモノづくりは指示書やSkypeだけでは伝えきれないものなので、企画スタッフは山形の本社にいないと難しい。そういう点が他のブランドさんと違うところかなと思います」(大江)


ブランドの成長とともに増えていくスタッフは、そのほとんどが県外から山形の本社採用になった人たちだという。ウィメンズのデザイナー、神山悠子さんもその一人。

「イギリスの『London College of Fashion』でニットを専攻していたのですが、卒業後、ニットに強いブランドに入りたくて就職活動をしていた時に、『PASS THE BATON』のイベントで『COOHEM』を知り、ご縁があって入社することができたのですが、東京の事務所で面接を受けたため、てっきり東京で働けると思っていたら山形だよって言われて(笑)。入社後は基礎的な研修を経て、しばらくは編み立ての職人として機械を動かしてサンプルを編んでいました」(神山)


まず、現場を経験することが、会社やブランドにとってとても重要なことだと、大江さんは語る。

「ニットデザイナーで手編みができる人はいますが、自分で編み機を動かせる人はいないんです。デザイナー志望で入社した人でも最初に現場に配属します。編み立て、パターン、縫製ができるニット業界の人はすごく珍しいですし、それが強みにもなるからです。現場でモノづくりをする職人たちと円滑に物事を進めるためにも、現場を経験してもらうようにしています」(大江)


『COOHEM』では企画をする際、まず、原料となる糸づくりから始めるという。国内、イタリア、中国など産地特有の糸を仕入れて加工したり、紡績工場や撚糸工場の職人さんに教わりながら昔の糸をリバイバルしたり、染め方を変えるなど、糸そのものをオリジナルの状態にした上で組み合わせて生地を作っていくため、製品になるまで気が遠くなるような時間を要する。こういったモノづくりすべてにおいて、現場で培われた経験が活かされている。

『米富繊維』は全自動横編機を43台保有する、日本一であり世界でも有数の生産体制を敷くニットファクトリー。ニットテキスタイルの開発から、編み立て、パターンメイキング、縫製、リンキング、仕上げ、品質管理に至るまで、すべての工程を自社工場で完結している。歴史と技術、クラフツマンシップによって『COOHEM』のコレクションが生まれている。

ブランドのルーツに立ち返って発信する、独創的なコレクション

2018秋冬コレクションでは「FIND the Roots」をテーマにブランドの出発点である、“ニットらしいけれどニットらしくないもの(THIS IS NOT A SWEATER)”という揺るぎないコンセプトに立ち返り、『COOHEM』の独創性を発信している。

「ブランドが成長してくると、そもそも何をやるためにブランドを作ったのか分からなくなることがあるんです。そんな時、振り返ってみると『COOHEM』はニットブランドなのにセーターがひとつもないみたいな、ニットらしくないものを作ってきたことや、ニット工場が作る新しいタイプのファクトリーブランドということが、そもそものスタート地点だったと、改めて気付かされます。僕たちはモノづくりをする会社ですから、他の人が作れないものを作るということ、ブランドだからできること、それらをもう一度見直すという思いをテーマに込めています」(大江)


ブランド発足当時はアイテム数が少なく、強いテキスタイルのジャケットブランドのようなかたちでスタートした。

「ツイードジャケットを中心としたブランドから、徐々にバリエーションが増えてきました。それは、スタッフが増えたということもありますが、企画する側も職人も経験を積んだことで、技術力だけでなくデザインしたものを作るということの定着もあります。現場が進化することで『COOHEM』の商品も進化して、今のスタイルになってきたと思います」(大江)


今シーズンのライダースジャケットは進化の最たる例で、『COOHEM』らしく構築するために繰り返された修正や手間のかかる工程が発生することにも、現場の職人たちが馴染んできてくれたそう。

「基本的にニット工場で縫製はしないのですが、ライダースのようなアイテムを縫製する際、布帛のように裁断して捨てミシンをかけ、編地の周りをミシンで一周して糸の飛び出しを抑えていきます。ロックミシンをかける前に、ひと工程加えているんです」(神山)


また、左右非対称のアランニットにはこんなエピソードがある。

「企画する際、もともとのルーツやオリジナルを踏まえた上で、どう現代に合わせてくか、そしてニットの技術プラス『米富繊維』でしか作れないものを考えていきます。普通のアランセーターは僕たちに期待されていないと思いますし、左右非対称だとどうなのかなっていうことが最初の興味だったのですが、左右非対称には編めないよって、職人に嫌がられましたね(笑)。調整を繰り返し、2017年秋冬で左右非対称のアランセーターを発表して、今シーズンはアラン柄を400%に拡大したらどうなるのか? と(笑)。職人にアラン柄を400%にしたいんだけど、いけます? みたいなやりとりを繰り返しながら開発した商品です」(大江)


“拡大してみたらどうだろう”という発想は他のアイテムにも見られる。

「織物の柄のオリジナルは細かい作りですので小さくしていくことは難しいのですが、大きくすることによってモダンな印象に変わるんです。例えば、今シーズンはヘリンボーン柄を大きくして、クラシックすぎない表情のコートを提案しています」(神山)


その他、ノルディックセーターやジャガード、カシミヤ、サイドラインパンツなどこだわり抜いたアイテムを展開している。

  • ファーストコレクションから毎シーズン提案しているツイードジャケットは『COOHEM』の象徴的なアイテムの一つ。イタリア『VIMAR』社の最高級ファンシーヤーンを用いて、ラグジュアリーな雰囲気に仕上げている。
    ツイードジャケット 56,000円/COOHEM(WOMEN)

  • クラシックなネクタイの柄、レジメンタルストライプと小紋柄を拡大させて、スーパーキットモヘアでジャカード編みしたもの。表面に風合いを出すため、手作業で均等になるようにアザミの実で起毛させている。ストライプ柄のメンズプルオーバーとマフラーはストデパ限定アイテム。
    スカート29,000円 ニット 35,000円/ともにCOOHEM(WOMEN)

  • スーパーキットモヘアにミンク加工を施しているノルディックニット。毛が吹き出ているような高級感のある風合いが印象的。仕上げのミンク加工は裏面もふわふわした状態になっているため、とても柔く着心地がいい。
    ノルディックニット 34,000円/COOHEM(WOMEN)

  • ローゲージニットの上からも着れるように、肩をドロップショルダーに改良したヘリンボーンコート。柄を拡大させてモダンな表情に仕上げている。ポケットと衿の部分だけ柄を少し小さくしてアクセントをつけている。
    ヘリンボーンコート 85,000円/COOHEM(UNISEX)

  • 国内で紡績した最高級カシミヤを用いた、目に鮮やかなカシミヤのプルオーバー。オリジナルの2色杢の糸をミックスして、仕上げにミンク加工を施すことで表面の起毛が混じり合い、新しい色が生まれている。メンズアイテムをビッグシルエットで着るのもおすすめ。
    カシミヤニット 45,000円/COOHEM(MEN)

  • サイドラインパンツのコレクターで研究もしているという、大江さん渾身の一着。サイドラインパンツはもともとミリタリーウェアで将校がセレモニーで着る洋服に付けていたもの。サイドラインをニット組織で編んでいき、途中からツイード組織に変えて『COOHEM』らしさを表現している。
    パンツ 26,000円/COOHEM(MEN)

コレクションを企画する上で欠かせない、本や図鑑の存在

ウィメンズに加え、メンズやユニセックス、雑貨など、シーズンを重ねるごとにコレクションが広がり、膨大な数のデザインやアイデアが生まれている。そのクリエイションにおいて、大江さんに影響を与えるのはファッションのオリジナルを紐解くような古本たち。

「この『アイビーボーイ図鑑』は企画をする上でのバイブルになっています。僕がセレクトショップにいた頃、“もともとのルーツを勉強した上で着崩す”など、オリジナルやルーツを知ることは大切なことだと経験から学びました。この本には難しいことは書いていなくて全部イラストなのですが、毎回、コレクションを考える際、イラストだけを眺めるんです。『COOHEM』だったら、こんなふうに落とし込んでみようかなとか、ダッフルだったら大事なポイントってどこなのか、そのディテールはもともと何のために作られたものなのかなど、少しづつ掘り下げて、それをニットに置き換えていく作業をしています」(大江)


知識を掘り下げる作業の流れで、すっかり古本にはまっているそう。

「70〜80年代のファッション本って、すごい情報量なんです。当時のアメリカ、ヨーロッパのいい物を紹介しようとした日本人が徹底的に調べて、こういうマニュアル本みたいなものを作っている。ファッションの世界にいると欧米に憧れますが、ここまでやる日本人の仕事を見ると、その人たちがやってきたことがマニアックで刺激になることがあります。当時のアメリカの大学生のライフスタイルまで分解しようとしたとか、それをショップにして提案しようと思ったなど、それを見るのが楽しくて。最近は日本人のフィルターを通った欧米のものを見るっていうのが多いですね」(大江)


一方、神山さんはイメージ的な本がクリエイションの参考になるという。

「日本のブランドだからこそ日本人のフィルターを通して発信するという、大江の考え方にディテールやアイテムですごく影響を受けていますが、私が企画をする際に参考にしているのは、もう少しイメージ的なもので、例えば、色の構成です。グラフィックデザイナーのアレクサンダー・ジェラルドの本やチェック図鑑、テキスタイルマガジンなど、デザインやアイテムが決まってきた時に色の構成やイメージの部分をなんとなく見て、この辺の色にしようかなとか、チェックだったらどういうチェックがあったかなというように確認するために使っています」(神山)


今後の展開については、ニットを中心としながら、少しづつ布帛寄りなアイテムを加えてコレクションに厚みをもたせていく予定だという。進化していく『COOHEM』のコレクションに、これからも目が離せそうにない。

  • 1/2

    大江さん本:企画をする上で大江さんのバイブルだという『アイビーボーイ図鑑』や、アイディア源となる『世界の軍服』、『男の服飾図鑑』、『アイビーギャル図鑑』など、古本屋で見つけたものがオフィスにたくさん揃っているという。

  • 2/2

    神山さん本:グラフィックデザイナー、アレクサンダー・ジェラルドが『herman miller』のためにデザインしたものを集めた作品集や、チェック図鑑『CLANS & TARTANS OF SCOTLAND 』、テキスタイルマガジン『VIEW TWO』など、神山さんのイメージ源となる書籍は色の構成などに役立てられている。

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COOHEM

米富繊維株式会社 代表取締役社長/COOHEMディレクター大江 健(オオエ ケン)。
COOHEMウィメンズデザイナー神山悠子(カミヤマ ユウコ)。
山形県の老舗ニットメーカー『米富繊維』のファクトリーブランドとして、2010 年秋冬コレクションよりスタート。ブランド名は“交編(こうへん)”に由来する造語で、その意味は形状の異なる複数の素材を組み合わせて編み立て、まったく新しい素材を生み出す技術を指す。高度な解析を要するプログラミングと、色や素材を組み合わせるクリエイションの融合で、独創性に富んだトラディショナルウェアを表現している。第2回『TOKYO FASHION AWARD』受賞を機に、海外での展開も積極的に行なっている。

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  • Photo: Hiroki Ota
  • Text&Edit: Naomi Miura
  • Direction: Miki Fujibayashi

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