Editorial | あの人のワークライフ vol.2 Editorial | あの人のワークライフ vol.2

Editorial / September 2021

榎本 実穂 / 森岡 督行
あの人のワークライフ vol.2

写真 / 中川 淳
取材協力 / 榎本 実穂 , 森岡 督行

雑誌やメディアなどで気になるあの人のワークライフに迫る企画。今回はアパレルブランドのディレクター 榎本実穂さんと、書店オーナー 森岡督行さんの仕事中に欠かせないアイテムからオフの時間のお決まりまでをご紹介。「仕事中の私も好きになろう」を合言葉に、やりがいや楽しさを感じながら自分らしく働くためのヒントを見つけては。


心を動かす洋服の背景に、
情熱と普遍的な美への追求が

日本のトレンドの発信地、表参道の駅近くのビルを上がるとオープンに開けたショールームが。そこに広々と気持ち良く並ぶのは、2021年秋冬にデビューしたブランド『MIOSMOKEY(ミオズモーキー)』のファーストコレクションだ。「ダーリンとシェアするクローゼット」をコンセプトに、ユニセックスでも使えるデザインを展開し今注目されている。
「例えば、男性がクローゼットに並んでいる洋服を見て“これいいじゃん”ってパートナーとシェアできる、そんなものづくりを目指しています。トレンドを発信するというより、アクセサリーや髪型を変えたり、アレンジを加えながらそのときの気分に寄り添えるような普遍的なアイテムができたら最高。定番のデザインをベースに、そのシーズンのムードに合わせた生地や色で展開しながらブランドを育てていきたい」
ブランドのディレクションを行うのは、アパレル業界で豊富な経験と知識を養ってきた榎本実穂(えのもと みほ)さん。榎本さんが醸す凛とした雰囲気と、頭の天辺から足の爪先まで「洗練」という言葉がぴったりな着こなしに取材陣一同は虜になった。

「個人でブランドをスタートし始め、オフィスを設けていないので、洋服の質感のチェックやトワルチェックなど、いろんな人といろんな場所で打ち合わせをする機会も多く、いつも荷物は仕事で使う一式を持ち運んでいます。生地サンプルまであるので、かなり重く体力も鍛えられます(笑)」

奥から時計回りで
<上>『PRADA(プラダ)』の限定品のタンブラー。リッチなデザインと丈夫なつくりが素敵。

<右>デザインをする際に外せないシャープペンシルと消しゴム。シャープペンシルの筆圧で細かなニュアンスの変化を表現できるところや消しゴムで何度も消した跡(努力)がわかるところがお気に入り。

<中央>お気に入りの『petit h(プティ アッシュ)』のノート。

<左上>ディストリビューターの友人に「試してみて」と言われてから愛用している『IIUVO(アイーヴォ)』の香水。ウッディな重厚感ある香りが榎本さんの人柄にぴったり。

榎本さんのファッションへの愛と情熱は自身のスタイリングにも現れている。絶妙な着こなし方はもちろん、ジュエリーやハイヒールの取り入れ方まで、街で見かけたら誰しもが振り返るだろう。
「香水とジュエリー、ハイヒールは、スイッチをONに切り替えるため、朝家から出るときに必ず身につけるものたち。ジュエリーは、ゴールドやダイヤモンドなど毎日身につけているアイテムをベースに、その日の気分でバングルや時計を変えたりして楽しんでいます。ブランドは決まっていて、今は無き『Maison Martin Margiela(メゾン・マルタン・マルジェラ)』のハイジュエリーライン、パリへ行った際に自分へのご褒美として必ず購入している『JEM(ジェム)』、そして友人がデザイナーを務める新しいブランドの『to got(トゥーゴット)』」
ものを選ぶこだわりとして、デザインはもちろん、その背景やストーリーにも一貫性を感じられるところは、ファッションを愛する者からすると尊敬のレベルだ。
「『JEM』は事前にアポイントをとってから購入に行くのですが、その日私が身につけていた『Maison Martin Margiela』のジュエリーを見たデザイナーが“それ私がデザインしたんだよ”と。その偶然の出会いにはふるえました。ハイヒールはいろいろ試して行き着いたのが、やっぱり『Manolo Blahnik(マノロ ブラニク)』。ラグジュアリーな美しさとハイヒールでも走れるデザインで断トツ。時代に左右されない普遍的な美しさや造形美のなかに背景や作り手の思いが詰まっているものに惹かれます」

悠々とした雰囲気から語られる愛あるファッションのストーリーは、1時間では足りないほど興味深いものだった。そんな榎本さんの気になるオフタイムの過ごし方に、仕事のインスピレーション源があるという。
「一日にぎゅっと仕事を詰め込んでしまうので、休日は散歩や料理など、違うことを考えられる時間を作ることでリフレッシュしています。バスにふらっと乗ってみて、降りたことのない場所にあえて降りてみる。何も考えずにぶらぶらしていると、普段なら見過ごしてしまいそうなビルのひび割れやシンプルな螺旋階段が目に入り、その美しさに夢中になることも。最近行った街で良かったのは両国。下町の雰囲気や建物はもちろん、よく見るとすごくハイカラなおじさんをコーヒー片手に眺める時間が大好きです(笑)」
また趣味である料理を作る段取りからも、榎本さんの仕事中の様子がうかがえる。
「基本的に没頭できることが好きで、料理は調理器具を揃えるために浅草橋へ行くこともあります。調理前、キッチンに食材を全部並べて、どの順番で作ってなどと企てている時間が楽しいです。毎回6品作るように心がけており、1時間で全て作り終えると達成感を得られてストレス解消にも。あとはセルフネイルの時間も大切なひとときです。毎年、親友が今年の色を2色くれるのですが、“今どんな気分”とヒヤリングされ、そこから選んでくれるカラーが素敵でどれも大事にしています」

仕事やオフの日の話からも、榎本さんのファッションへの情熱、そして普遍的な美しさを追求する姿勢が感じ取れた。「辞めようかなと思っていた時期もありましたが、コロナ禍で生地屋さんや工場など、厳しい状況になってしまった方々もいて、ファッションを通してもっと社会に貢献できるんじゃないかと思い、新しいブランドをスタートしました。ブランドに関わってくれている方々の支えに少しでもなれたらなと。ただ、生み出すことって簡単、作り続けることは難しい。今までは生産性が重要視され、着るのも捨てるのも簡単なものが世の中に溢れていたけど、これからはベースである素材や作る過程にこだわりと熱を持つことで、ファッションも永く愛されるものになるのかな、と思ってます」不安定な状況が続くご時世、洋服まで配慮するのは難しいと感じている人が多いなか、榎本さんが生み出す洋服には“やっぱりおしゃれって楽しい、おしゃれって最高”と心を突き動かすパワーがある。

Her favorite things

最近ハマっている魚捌きで作った鰯の梅煮

毎日の習慣、糠漬け

手間のかかる料理も作るように

休日の両国散歩で出会った、最高の建物!

こちらも両国散歩で出会った、レトロな螺旋階段

/ PROFILEプロフィール

榎本実穂

『MIOSMOKEY』ディレクター

某大手セレクトショップのバイヤーを経て、2014年にファッションブランドを設立し、クリエイティブディレクターを務める。2020年に独立、その後フリーランスのファッションディレクターとして様々なブランドのデザイン、ディレクションを手掛ける。2021AWより、新しいデニムトラウザーのカタチを提案する『LIVINGTONE(リヴィントーン)』、レディス&メンズトータルウエア『MIOSMOKEY』をディレクターとしてローンチさせる。

/ INTRODUCING BRANDブランド紹介

MIOSMOKEY

ミオズモーキー

Since 2021 fall&winter
イギリス、ノッティングヒル在住のフォトグラファー SMOKEY(スモーキー)が撮影した、あるカップルの一枚の作品に惹かれ、着想し、広がる世界観をブランドの根源としている。

【Darlingとシェアするクローゼット】
彼とクローゼットをシェアします。そこに並ぶ彼のお気に入りを自分のコーディネートにプラスしてユニークなスタイルを創造します。たまには、彼もこっそりと彼女のものを拝借します。


リアルな場で
多種多様な世界を伝える
それは趣味として仕事として

銀座の繁華街を少し離れると、昭和レトロな情緒漂う建物が残るエリアが。ビルの一階にあるすっきりとしたガラス張りの空間は、なんと本屋である。ここは「一冊の本を売る本屋」をコンセプトとした森岡書店だ。オーナーは、雑誌やメディアで見ない日はない森岡督行(もりおか よしゆき)さん。
「1998年、神保町の一誠堂書店に勤めてから、この道 23年、ベテランの域も超えてしまいました(笑)。本は設置面積が広く、様々な分野の方々と関われる職業です。今もこうやって、編集の方やフォトグラファーの方と、また最近は異業種の方々とお仕事をさせていただきました。例えば、縄文時代(狩猟社会)と弥生時代(農耕社会)でいえば、縄文時代の人と協力して狩りに行くような、そんな働き方ですね。ひとつの分野では成り立たない仕事ですが、いろんな人とのご縁があり、さらに多種多様な世界に触れられることが嬉しい」
取材中、お店には絶えずお客さんが訪れていた。森岡さんとのコミュニケーションの中には、長年の経験から培われた幅広い分野の知識が垣間見える。そこには常にさりげない心遣いと、ユーモアも。だからこそ、書店だけではなく、洋服のデザインやブックディレクター、工芸祭のディレクションまで、活躍は目まぐるしい。

「2018年の山形ビエンナーレに参加したことがきっかけで、イラストを手がける機会も増えました。デザインのアイデアは、銀座にある画材店『月光荘(げっこうそう)』のスケッチブックに詰まっています。紙の厚みの種類が豊富で、私が愛用しているのは厚みが一番薄いタイプ。デッサンに使用する筆記用具にもこだわっていましたが、本格的な道具は色が濃いものが多く、行き着いたのは普通の鉛筆とマッキーの水性ペンの組み合わせです」
もの選びひとつとっても、本のプロである森岡さんはものの歴史や物語への探究心が強い。
「『月光荘』の歴史が好きなんです。スケッチブックは、『月光荘』の創業者の“おじさん”と昭和期の洋画家である猪熊弦一郎氏が共同して開発をしたという歴史を持っています。昭和から令和まで、社会や文明が大きく変化しても、このスケッチブックのデザインや仕様は一切変わっていない。そんな普遍的なものの歴史に一票を投じたくなる」
鮮やかな色とりどりの表紙、小さなサイズから大きなサイズまで、経年を感じるスケッチブックには、森岡さんの頭の中が覗けるような楽しいイラストがたくさん描かれていた。

写真のイラストは、資生堂の企業文化誌『花椿』の、銀座の過去、現在、未来を縦横無尽に旅するエッセイ『現代銀座考』にて掲載している。

「気持ちを切り替えるために欠かせないのは、香りです。これらはまだ一部ですが、その時々で気に入った香りに出会ったら購入する、そうしているうちに季節に合った香水を選ぶようになりました」

写真左から
<左>線香の老舗ブランド『日本香堂(にほんこうどう)』から展開されているフレグランス anming。さっぱりとした柑橘系の香りがお気に入り。

<左から2番目>世界最古の薬局としての歴史を持つイタリアのブランド『Santa Mariano Vella(サンタ・マリアーノ・ヴェラ)』のオーデコロン。ナチュラルな優しい香りで、使用頻度が高いそう。

<右から2番目>ひと吹きでラグジュアリーな気分になれる『CHANEL(シャネル)』ココ マドモアゼルのオードゥ パルファム。

<右>日本における香りの在り方を強く意識して作ったという『AUX PARADIS(オゥパラディ)』の香水。南フランス産のラベンダーをたっぷり使用した#4 SAVON。

<右奥>森岡さんお気に入りの本のひとつ。香水に関連した短編集、長谷部千彩さん著書『私が好きなあなたの匂い』(河出書房新社)。今にも香水が薫ってきそうな心地よいストーリーが素敵。

書店でのイベントをベースに、地方の工芸品とのコラボレーションやメディアでの連載など、売れっ子とも言える森岡さん。オフの時間や休日をどう過ごしているのかが気になるが……。
「いい意味で、仕事と休日の境目がないです。仕事=趣味の延長線なので、お話をいただいた出版イベントや取り組みは私自身も楽しみながら行っています。一日で仕事に費やす時間が多い分、自分の苦手なことや嫌なことにアベレージを置いてしまうと人生を最大限に楽しめません。好きなことや得意なことを伸ばしながら働く──これはコロナ禍で考える時間が増えた分、感じている方も多いことではないでしょうか」
経験したことのない状況下になり、私たちは改めて人生の歩み方について向き合った。仕事についても同じ、一生に一度の人生なのだから、前向きな気持ちで楽しみながら働きたい、と。そんななかで、考える時間は大事だと語る。
「各々が真剣に“これから”のことを考える機会ができたとき、世の中に溢れているデジタルな情報ではなく、紙の本を手にした人は多かった。そこには、本を開くことで自分の考えをまとめたい深層心理があるのだろうと。私も同じように、初めて緊急事態宣言が発令された一週間は考える期間を設けました。本を通して気づきや学びを得た人も多いと思います。やっぱり“人間には考える時間が必要”ですね」

文字や写真、絵を追うだけで、本は私たちをありとあらゆる世界へ誘ってくれる、そんな特別な存在。さらに本づくりに関わった人と直接交流する場があれば、物事への関心も深くなり、見え方も変わってくる。
「2020年は、相次いでお仕事がキャンセルになってしまい、店もしばらく休業を余儀なくされ、一時期は閉めるか閉めないかまで考えていたこともありました。しかしその頃から、出版イベントや一緒に取り組みができないかなど、また少しずつお話をいただけるようになりました。お客様がこの書店を通して、いろいろな世界に直接触れてもらう、そんなリアルな場が必要とされていると再認識できた機会でもありました。これからお客様をどう迎えて、どう提案していくのか、今もまだ“考える”時期です」
これから森岡さんが提案するさまざまな本やデザイン、企画には新たな時代らしい感動や発見があり、私たちの人生を豊かにしてくれるエッセンスを提供してくれるだろう。

/ PROFILEプロフィール

森岡督行

森岡書店オーナー

1974年生まれ。「一冊の本を売る書店」がテーマの森岡書店の代表。展覧会企画にも協力。「雑貨展」(21_21 DESIGN SIGHT)、「そばにいる工芸」(資生堂ギャラリー)、「Khadi インドの明日をつむぐ」(21_21 DESIGN SIGHT)など。京都・和久傳のゲストハウス「川」や、「エルメスの手しごと」展のカフェライブラリーの選書を担当。文筆家として新潮社『工芸青花』のサイトで日記を、資生堂『花椿』サイトで「現代銀座考」を連載中。著書に『荒野の古本屋』(小学館文庫)、『ライオンごうのたび』(あかね書房)などがある。


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