Editorial | あの人のワークライフ Editorial | あの人のワークライフ

Editorial / April 2021
あの人のワークライフ
写真 / 中川 淳
取材協力 / 久保 寛人 , 中神 一栄

「テレワーク推進」が謳われ、改めて自分の働き方を見直すきっかけとなった2020年。これからは仕事をしている時間も自分らしさと心地よさを大切にしてゆきたい。今回は雑誌やSNSなどで話題のあの人の仕事中に欠かせないアイテムから、オフの時間のお決まりまでをご紹介。「仕事中の私も好きになろう」を合言葉に、新しい働き方のヒントを見つけては。


植物、DIY、焙煎、蒸留……
生まれるは未開拓のアイデア

高層ビルが立ち並ぶ東京都麹町のオフィス街を少し脇道へ、ビルの半地下路面から覗くのはたくましい植物たちの息吹を感じる温室のような空間。
「たまに花屋かなんかだと間違われて入ってこられる方もいますよ。これらの植物はお気に入りを見つけたり、知り合いの生産者さんからいただいたりしているうちに膨大な数に。最近オフィスを移転したのですが、ここに決めたのも植物を自由に置けるスペースがあったのが決め手です」
アパレルなどの店舗の内装などを手がけるInsideout ltd.代表の久保寛人(くぼ ひろと)さん。都心のオフィス街、と植物のパワー溢れる癒しの空間、そんな相反するものから新しいアイデアは生まれるという。

「職業柄、CADやCGなどデジタルな作業の比重が大きいのですが、コロナ禍でできた自由な時間でDIYをして店舗のスピーカーなんかを作ったりと、アナログな作業も楽しんでいます。わざわざ時間と手間をかけることで、仕事に繋がるアイデアがひらめくことも。植物もそうですね。育てるのに手間隙がかかりますが、その時間が大切。それはどの職業にも共通して言えることだと思います」
都会らしい立地と植物に囲まれたオフィス同様、久保さんの持ち物や働き方にも、デジタルとアナログなものが共存している。

左奥から時計回りで
<上>出張に行くときは、Leica X1で35mmカメラらしい単焦点レンズで撮影。

<右>TV会議でよく使用している『ANKER(アンカー)』のスピーカーフォン。

<下>『Postalco(ポスタルコ)』のペンケースと図面を測る三角スケール。Postalcoのアイテムは、入る本数が限られている単純なデザインと経年変化を楽しみながら愛着を持って使えるところがお気に入り。

<左>好きなプロダクトデザイナーJasper Morrisonがデザインを手がけた『LAMY(ラミー)』のaionの万年筆と、こちらも長年愛用している『Moleskin(モレスキン)』のノート。

持ち物や働き方以外にも、オンオフ関係なく愛飲しているコーヒーにポリシーがうかがえる。
「簡単に買えるコンビニのコーヒーも美味しいですが、ひと手間かけて淹れたコーヒーのほうがより美味しく感じる。それに仕事が忙しいと休憩をとるのをつい忘れてしまうのですが、自分でコーヒーを淹れることで強制的に休憩もとれます」
ギアにもこだわりが詰まっている。大坊珈琲店監修のネルドリップやacaiaのコーヒースケール、la Pavoniのエスプレッソマシン、水出しコーヒー器など、今すぐにでもカフェが開けそうなプロ並みの取り揃えだ。
「今のトレンドはさっぱりとした味わいですが、私はどちらかと言えば濃いめが好きなので、自宅で焙煎もしています。昔ながらの喫茶店に出てきそうな深い味わいのコーヒーは仕事中の欠かせないお供ですね、流行りに逆行していますが」
取材陣もお手製のコーヒーをごちそうになった。目がシャキッとするほどの深みがあるが、久保さんが持つ温かみと優しさを旨味として感じ取れた。

オフィスの中で一際目を引くのが、ガラスの蒸留器だ。
「もともとアロマオイルに興味があったのですが、ふとオイルができるまでの工程が気になり、探究心から数年前に蒸留器を手に入れました。うちにある蒸留器では大量のオイルはできませんが、オフィスで育てているハーブをカットして、そこから蒸気が上がってくるところやオイルが出てくるまでのひとときも楽しんでいます」
ガラスの蒸留器の左側にあるのは、江戸時代に薬油や酒の製造に用いられた蘭引(らんびき)だ。
「たまたまオークションサイトで出品されているのを見つけてすぐに購入しました。ガラスとは違って中が見えないですが、骨董品らしい無骨な感じがいい。蒸留レーベル『RAMBIKI』のネーミングの由来でもあります」
新しい時代を迎え、仕事もプライベートも、時間にゆとりができた人は多い。だからこそ、久保さんが想いを巡らせる新しい取り組み、蒸留器を使った企画にも無限の可能性を感じられる。
「中華のシェフの知人から、蒸留器で唐辛子をやってみてほしいと大量の唐辛子をもらったところです(笑)。でもそうやって興味を持ってくれる人は多いなと感じます。まだ趣味の範囲ですが、いずれは自宅でも気軽に蒸留が楽しめるようにもう少しコンパクトなサイズの蒸留器とハーブをセットにして、多くの人に魅力を伝えていくのもいいかなって」

時代はどんどん進化を遂げ、暮らしが便利になるなか、植物やDIY、焙煎、蒸留など、あえてアナログなことにトライすることで、普段は見過ごしてしまいそうなことに気が付く。そうやって誰も踏み入れたことのない新しいアイデアが久保さんから生まれるのだろう。

His favorite items

『Aesop(イソップ)』のブラスオイルバーナー
キャンドルを中にいれてオイルを温める、原始的な使い方がお気に入り。

『Vitsoe(ヴィツゥ)』 606 ユニバーサル・シェルビング・システム
久保さんが尊敬するディーター・ラムスがデザインした
シンプルで頑丈なシェルフ

三原康裕さんから譲り受けたアンティークの木工作業テーブル
重厚な風合いで、圧倒的な存在感を放つ

/ PROFILEプロフィール

久保寛人

Insideout ltd.代表

1975年 千葉県生まれ。建築設計事務所「クライン ダイサム アーキテクツ」勤務を経て、Insideout ltd.設立。MIHARA YASUHIROの店舗やオフィス、飲食、什器等のプロジェクトを手がけている。2021年 蒸留レーベル「RAMBIKI」をスタートし、蒸留関連プロダクトを企画中。

「Insideout ltd.」:www.insideout-ltd.jp 「RAMBIKI」:www.rambiki.com Instagram:@rambiki_distillation


仕事も自然体に楽しむ、
根底にあるのは真摯な姿勢

木々も芽吹き、新緑でまぶしい目黒川から少し離れると、突如現れる全面ガラス張りの箱のような建造物。クラシックなアイテムを現代的な視点で再構築したモダンなデザインで注目を集めるデザイナー中神一栄(なかがみ かずえ)さんが手掛ける『NAKAGAMI(ナカガミ)』の初の旗艦店だ。外と中との境界線がないお店は、風や太陽の光を感じながらブランドの世界観も楽しめる空間となっている。
「もともと代官山や中目黒には馴染みがあり、自分が心地よいエリアが良いと思い、ここにお店を構えました。お店はプレスルームも併設していますが、自宅とアトリエは故郷の広島にあるので、広島と東京の二拠点生活。東京では常にオンの状態ですが、広島はつながりのある人も多く自分自身が伸び伸びといられる大切な場所です」

「開放感」という言葉がぴったりな店構え。そしてまた、中神さん自身も柔らかい笑顔と気さくさで、話を聞いている側の気持ちを和ませてくれる魅力を持っている。彼女のマイルールは、仕事のときもプライベートのときも自然体で楽しく、そして身の丈に合ったペースで進む。仕事中の持ち物にも人となりと想いが現れている。

奥から時計回りで
<上>アンティークのお店で見つけたスタンド。仕事の資料や本などをがさっと収納でき便利。アートのようなデザインがインテリアにも馴染むお気に入りのアイテム。

<右>奥田民生さんのライブグッズのメジャー。デザイナーにとって大事な商売道具だが、ここでも中神さんの人柄と広島愛が伝わる。

<下>眼鏡っ子という中神さんが、広島のセレクトショップで出会ったアイウェアブランド『Mr.gentleman EYEWEAR(ミスタージェントルマン・アイウェア)』と『Wei(ウェイ)』コラボのサングラス。

<左>重いものが苦手という中神さんは、仕事上欠かせないカメラも軽さ重視。『SONY(ソニー)』のコンパクトデジタルカメラ。

着用しているカーディガンは、ボーダー柄をゲージの違う糸を使って表現している。光沢のある糸を使用しているので、シアーな部分から覗く肌を美しく上品に見せてくれる。普遍的なアイテムや概念をモダンに解釈する、まさに『NAKAGAMI』らしさが光るアイテムだ。
「ファッションてある程度余裕がないと楽しめないものだと思うんです。だからこそ、興味があったり少しでも好きな気持ちがあるなら、靴下でも小さなものにでもちょっと気合いを入れようと思っているときのほうが心も健康ですよね」
生み出すアイテムは、細かなところまで計算し尽くされているものばかり。合わせるだけでドラマティックになるスカートには、どのデザインにもスマホをすっぽり収納できるほどのポケットが施されている。抜かりないこだわりとさりげない気遣いに、女性は心がウキウキし感動を覚え、中神さんのデザインの虜となる。
「オノ・ヨーコさんのトークイベントで、海に大きな石を投げなくとも毎日小石を投げ続ければ世界中の波の波動が変わるんだよ、というお話を聞きました。私自身も大きな石を投げることはできないけれど、ファッションという小石を投げ続けて、みんなに楽しいと思ってもらったり、少しでも幸せな気持ちになってもらえたらなって。コロナ禍で世の中の流れが変わってよりその気持ちが強まりました」

周りを和ませつつも、撮影中の動きは機敏。そんな様子からオンのときのお仕事ぶりがうかがえるが、オフの時間は好きな音楽をレコードで楽むという。
「今じゃスマホひとつ、ワンタップで音楽が流れる時代ですが、あえてレコードで音楽を聞くという不便さを楽しんでいます。レコードってたまにプツプツと音が切れるじゃないですか。そのときにしか生まれない音も好きなんですよね」
最近は体質改善を考え食べるものにも気を使っているそう。
「無添加のものだったり玄米だったり、やっぱりベースはナチュラルなものが良いですね。コーヒーには牛乳を入れてよく飲んでいたのですが、どうやら牛乳が身体に合わなかったらしく……最近は豆乳に切り替えたりも。ただベジタリアンだったりヴィーガンだったり、そこまでストイックなわけでなないです。お酒も好きですし、ケミカルなものも適度に取り入れるし(笑)。自分に無理を課しすぎないようにしています」

心地よいハッピーな空気感を放っている反面、「仕事はできる限り楽しみながらしたい。そのためには何事にも真剣に取り組んで、要領良く頑張る、その下準備が必要」という真摯な姿勢も素敵だ。だからこそ、『NAKAGAMI』の感動的な洋服が生まれ、中神さんの周りには常に人が集まるのかもしれない。

Her favorite items

香りへの興味を抱いたのは「サカイ」時代に出会った
『diptyque(ディップティック)』がきっかけ

左:『HARIO(ハリオ)』のドリッパー
右:友人からのギフト『KARITA(カリタ)』のコーヒーミル

愛読書にはファッションはもちろん、
音楽関連、尊敬するオノ・ヨーコさんの書籍まで

/ PROFILEプロフィール

中神一栄

『NAKAGAMI』デザイナー

1979年広島県生まれ。服飾専門学校を卒業後、アパレルメーカー勤務を経て渡英。帰国後に「サカイ」など数社でパタンナーとしての経験を積んだ後に独立。地元の広島を拠点に、2013年に「ナカガミ」の前身「ウェイ」を立ち上げ、19年 に「ナカガミ」を開始した。

/ INTRODUCING BRANDブランド紹介

NAKAGAMI

ナカガミ

ニットを中心とし、伝統的なアイテムをベースに現代的な視点から再構築したコレクションを展開。普遍的な概念やアイテムを解剖しつつ、そこにモダニティをプラスしたデザインにシンパシーを感じます。
メンテナンスをしながら、大切に育てて行くような洋服。そして、経年変化を楽しめる洋服。そんな新しさを感じながら、10年後も着ることのできる服が理想だと考えます。

関連コンテンツはこちら