WHAT’S HACKETT LONDON?

5人の識者が語る
いま、気になる英国ブランド
“ハケット ロンドン”とは?
第4回 長山一樹さん(フォトグラファー)

紳士服の世界で「Mr.クラシック」と呼ばれるジェレミー・ハケットが、1983年にスタートさせたハケット ロンドン。英国調のトレンドのなか、当連載では本物のモダン・ブリティッシュ・スタイルを標榜するこのブランドの魅力を、5回にわたってファッションや英国文化に造詣が深い識者たちが解き明かしていく。第4回は、仕事着がスーツという異色のフォトグラファー、長山一樹さんが登場。

フォトグラファーの長山一樹さん。

長山さんは撮影中もスーツを着ているそうですが、どういう経緯で今のスタイルに行き着いたのですか?

仕事着としてスーツを着るようになったのは、シャツのオーダーがきっかけです。もともと、きちんとした格好が好きで、普段からシャツを着ていたのですが、僕は腕が長くて既製品だとサイズ選びが難しいんです。あと、毎シーズン、いろいろなお店を回って探すのが面倒になってしまったんですよ。そして、オーダーでできあがったシャツに腕を通した瞬間、“これさえあればいいんじゃないか”という結論に達したんです。それで、次はスーツに挑戦してみようと思い、オーダーを試みました。

ハケット ロンドンの生地見本を手に取る長山さん。

イメージしていたスーツがあったのですか?

初めてスーツをオーダーしたのは、2017年の秋口くらいでした。ちょうどそのころ、80年代や90年代初頭のジョルジオ アルマーニのキャンペーンビジュアルなどを撮影のリファレンスとして使うことが多かったのですが、そこに50〜60年代のアメリカのジャズ・ミュージシャンが着ていたスーツと共通する匂いを感じたんです。そんな影響もあり、ざっくりとした生地で、太くてズドンとしたシルエットで、ダブルブレストという漠然としたイメージを抱いていました。出来上がったのはチャコールグレーのアメリカ的な雰囲気のスーツで、厳密なルールに則ってスーツを着たいというより、もう少し気楽な感じに着られる1着が欲しかったんです。

ハケット ロンドンの生地見本を手に取る長山さん。

オーダースーツのどんな部分が魅力的だったのですか?

生地を選んだりする、さまざまな過程が単純に楽しかったんです。それに、ワードローブの軸をスーツにしてみると、朝の着替えも思ったほど手間じゃないし、コーディネートもネクタイを選ぶだけとか、小物を変えてみようとか、カジュアルに比べて、組み合わせが簡単じゃないですか。ちょっとした遊びで、いろいろな雰囲気を楽しめるのが新鮮だったんです。それから、仕事の合間に時間が空いたら、カフェで休憩するより、生地を見に行くようになってしまいました(笑)。そうすると当然、“次はこういうのがつくりたいな”となりますよね。そんな感じで、スーツの奥深さに目覚めたんです。

そこから何着オーダーされたのですか?

1年で8〜9着でしょうか。一気にいきましたね(笑)。1着目から5着目までは、同じブランドでした。最初にオーダーしたダブルブレストのスーツのでき栄えに満足していたので、あとは生地を変えるだけでいいと思っていたんですよ。ところが、毎日スーツを着ているうちに、徐々にほかのブランドのことも知りたくなって、いろんなお店を覗くようになりました。ただ、春夏物も、秋冬物もまだ足りません。理想は1シーズン7着。曜日によって着まわしできるワードローブにしたいです。僕の場合は、ロケで遠出することも多いので、今後はそういうときと都内のスタジオで撮影するときで雰囲気を変えたいと思っています。郊外に出かけるときのスーツは、パッチポケットのようなスポーティなディテールを取り入れるのも面白そうですよね。

オーダーの際のこだわりを教えてください。

フォトグラファーの仕事は肉体労働という側面もあるので、一般のビジネスマンよりもずっとハードに動き回ります。だから、ジャケットのアームホールや身幅には少し余裕をもたせて、着丈も動いたときにめくり上がらないようにいつも長めにしています。パンツはプリーツ入りにして、腰周りはゆったりとしたシルエットに。股上は深めが好みです。しゃがむときに、あまりストレスがなく、かつだらしなく見えないバランスを探りながら補整してもらいます。生地やベースになるかたちによって、数値がまったく同じではありませんが、着たときの感覚はだいたい一緒になるようにして、わりと上下ともに太めにすることが多いですね。

長山さんが取材当日に着ていたのは、グレンチェックのダブルブレストスーツ。

仕事柄、モードファッションに接する機会が多いと思いますが、デザイナーズのスーツではなく、クラシックの方向に目が向いたのはなぜなのでしょう?

僕には初老になったときに、スーツ姿が自然に見えるようになっていたいという願望があって、そのためには今から着ていないと間に合わないという感覚なんですよ。例えば、普段ハットをかぶらない人が、いきなりかぶると気恥ずかしい気分になりますよね。ああいうのは長年やり続けないと、当人のキャラになりません。60歳になったから、“さあやろう”というのでは無理がある。だからいっそのこと、毎日スーツで生活してみようと思ったんです。デザイナーズのスーツに関しては、どこのブランドもシルエットがスリムすぎて、仕事中は着られないという印象があります。だから、僕が既製品を買うことはまずないでしょうね。自分の美的感覚や体形、ライフスタイルに合わないというのが本音です。

ハケット ロンドン 銀座のオーダー用スペース。フィッティングサンプルや生地見本が整然と並ぶ。

ハケット ロンドン 銀座ではシャツのオーダーも可能。

ハケット ロンドンもオーダースーツが好調です。

そうなんですね。メンズファッションの原点である英国スタイルには、とても興味があります。流行に左右されず、長年にわたって着続けられることにも魅力を感じます。堅苦しいイメージもありますが、なじんでしまえば最高でしょうね。今度、ぜひお願いしたいと思います。

ハケット ロンドン 銀座ではシャツのオーダーも可能。

スーツの着こなし方は、どのように習得したのですか?

いろいろ自己流で試しながら学びました。例えば、ポケットチーフをいつも挿していると、ない状態が手を抜いているように思えてしまいます。でも、パフドスタイルやクラッシュドスタイルはフォトグラファーにしては華やかすぎるので、リネンの白を選んで、ティービーフォールドで挿すことが多いですね。着こなしのルールに捉われたくはないと思いつつも、スーツ関連の書籍は何冊か読みました。知っておかないとマズそうな部分だけですけど。着こなしのお手本は特にいませんが、ビル・エヴァンスをはじめとするアメリカのジャズ・ミュージシャンたちのスタイルや、建築家のル・コルビジェがスーツを普段着のように着こなしている姿には憧れます。コーディネートを真似したいというより、そういう佇まいの人間になりたいといった感じでしょうか。

ところで、普段のメンテナンスはどのようにしていますか?

基本的には自分でやっています。ただ、あまり気にしていないというか、パンツのクリースが取れたらプレスする程度。逆に、生地に少しシワが入っているくらいが好きなんです。打ち込みのしっかりとした英国生地などを使った、着るほどに味わいが増すスーツが好みです。クリーニングはまっさらのようになって戻ってくるので、あまり出しません。革靴もそうで、あまりピカピカだと気恥ずかしい感じがするんです。シワが入り始めてからのほうが、愛着が沸きます。

スーツを着るようになって、仕事に変化はありましたか?

メンズのドレスクロージングを撮る仕事が倍くらいに増えました(笑)。そういう撮影では、“こんな直立不動のポーズだと格好いいと思わないな”とか、スーツをいつも着ている僕の目線でベストなアングルを探ります。モードファッションよりも、ある意味、個人的な趣味嗜好を投影しやすいのがスーツの世界です。よりリアルな部分を突き詰められるのが面白いと感じています。これまではモデル撮影の依頼が多かったのですが、最近ではカタログのネクタイや靴の静物も“僕に撮らせてください”とよく言っています。ビジュアルをトータルでディレクションしたいという想いからだったのですが、実際にそういう仕事も増えました。

ご自身の写真への影響はありましたか?

もともと自分が気になる写真は普遍的なものが多く、現在のモード写真のトレンドにはあまり関心がありません。好きなのは、80年代後半から90年代にかけての海外のファッション誌などに掲載されていたような作品。ああいう表現テクニックを身に付けられたら、ビジュアルとしてのインプットはこれ以上いらないと思っているほどです。もちろん、そのなかでの好き嫌いはありますが、今はとにかく当時の雑誌やカタログを資料として集めまくっている最中です。ラグジュアリーブランドのキャンペーンや海外の最新動向にも目を向けますが、それは軽くチェックするくらいで十分。結局、僕が本当に好きなテイストはもう決まっているので、そこを徹底的に吸収しようと思って、頭と体に染み付くように毎日何かしらの資料を見ています。

好きなフォトグラファーはどなたですか?

デジタルカメラ時代に突入する前の、写真らしい写真を撮っていたピーター・リンドバーグやアルド・ファライ、パオロ・ロベルシなどの作品はよく見ますね。ある意味、現代の技術で表現できないものに挑戦している姿勢に刺激をもらっています。アニー・リーボヴィッツも彼らとは作風は違いますが、当時の写真は現代のそれと明らかにエネルギーが違うんですよ。何を変えたら、そういう世界に少しでも近づけるのか、いつも考えています。

ハケット ロンドンの世界観を表現した写真集『MR CLASSIC』(Thamas & Hudson)。

ジェレミー・ハケットさんの写真集『MR CLASSIC』(Thamas & Hudson)はご覧になったことがありますか?

もちろん、あります。写真のトーンも雰囲気もとても好きな世界観です。同じようなクラシックな世界観ではブルース・ウェーバーの写真が好きなのですが、彼が撮るとモデルが人間らしくなるというか、ファッション撮影っぽくなくなるというか、本当にその人がそういう格好していたかもしれないと思わせる力があります。そういうドキュメンタリータッチの作品を眺めるのは楽しいですね。人物像にリアリティをもたせて、なおかつそこに躍動感が感じられると、時間を忘れてつい見入ってしまいます。『MR CLASSIC』も世界観のつくり方が丁寧で、しかも上質。ジェレミー・ハケットさんのクラシックなメンズファッションに対する愛情がすごく伝わってきます。

ハケット ロンドンの世界観を表現した写真集『MR CLASSIC』(Thamas & Hudson)。

次回は、ソリマチアキラさん(イラストレーター)が登場!

今回のゲスト
  • 長山一樹/ナガヤマカズキ
    フォトグラファー

    1982年生まれ、神奈川県出身。2001年に麻布スタジオ入社。守本勝英氏に師事後、07年に独立し、現在は「S-14」所属。数々のファッション誌、広告などで活躍中。テキストにもファンが多いインスタグラムも好評。instagram:kazuki_nagayama

ハケット ロンドンとは

紳士服の世界で「Mr.クラシック」と称されるジェレミー・ハケットが1983年にスタートさせた英国ブランド。創業者ジェレミーのサヴィル・ロウのテイラーで積んだ経験と、アンティークに対する情熱やセンスがコレクションに色濃く反映され、現代紳士のビジネスやカジュアルシーンを支えるブランドとして世界中から愛され続けている。また、2018年秋冬シーズンから、ストライプデパートメントでの取り扱いを開始。

旗艦店が銀座に

2016年にオープンした「ハケット ロンドン 銀座」は、英国リージェント・ストリートのストア同様にジョージアン様式をベースに、ポートベロー・ストリートで収集されたヴィンテージアイテムやアンティーク家具、装飾品が整然とディスプレイされ、チェルシー地区にあるジェレミーの邸宅を彷彿とさせる。オンとオフの紳士のためのワードローブが幅広く揃い、パーソナル テーラリング サービスも展開。

ハケット ロンドン 銀座

住所:東京都中央区銀座5-2-1 東急プラザ銀座1F
TEL:03-6264-5362
営業時間:11:00〜21:00 不定休

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